32 イヌワシの保護の強化並びに繁殖率の向上について請願
平成16年9月29日
環境福祉委員会
議決日:平成17年3月24日
議決結果:別記のとおり
送付
別記
【採択】
1 イヌワシ営巣地の鳥獣保護区化の拡大
3 繁殖期高度利用域の低疎林化の拡大
4 営巣地周辺への餌となる放鳥等の実施
8 巣の補修及び巣周辺の繁茂樹木等の伐採について
9 鉛使用弾の禁止の徹底
全国で営巣地が確認されているイヌワシ約200ペア(環境省調査)のうち全国一の高密度生息地と言われる当県には、成鳥32ペア(16%)とペアを組めない若鳥(成鳥の約20%)を合わせて80羽程度が棲息していると推測されている。
しかし、1991年以降の県内の巣立ち数は、多くて6〜7羽程度で、直近は一昨年が4羽、昨年が3羽、今年は3〜6羽(県推定)程度と低繁殖の傾向が著しい。
学識者等が唱える巣立った若鳥の1年後の生存率が四分の一程度という点を考慮すると、自然に恵まれた当県でさえ実質1〜2羽程度しか育っていないことになる。
イヌワシの寿命が約20年程度と見られていることから、世代交替数に見合う4〜5羽(巣立ち数で16〜20羽)どころか現状はその約四分の一の水準で、イヌワシ自体の高齢化とともに事実上絶滅が進行していると考えられる。
したがって、生態系の頂点に君臨し食物連鎖の最終段階に位置するため、自然界の健全性の先行指標と言われるイヌワシ等猛禽類の生息域の自然の保護を強化し、生態系の崩壊を阻止することが、取りも直さず将来の県民の健康的な生活を守ることにつながると考えられ、その具体策を急ぐ必要がある。
上記の認識に立ち、次の事項の早急な対策実施を請願する。
1 イヌワシ営巣地の鳥獣保護区化の拡大
県の広第1137号(平成15年12月15日付)によれば、イヌワシ営巣地の保護状況は次のとおりとなっており、国の天然記念物、絶滅危惧種に対する県の保護区化が極めて遅れており、実質半数に達していない。
・鳥獣保護区 12箇所
・猟銃禁止区 3箇所
・休猟区 6箇所
(銃猟禁止区は丙種(わな猟)が行え、休猟区は2〜3年周期で乱場(一般の可猟区域)になるため、実質保護区とは言えない。)
したがって、イヌワシ営巣地32箇所中、20箇所(約63%)が事実上鳥獣保護区域に入っておらず、可猟区となっており、即この保護区化が繁殖率の向上につながるとは断言できないが、絶滅危惧種保護の基礎的条件として現状を早急に改善していただきたい。
2 公共機関による私有地のイヌワシ営巣地域の買上げ実施
イヌワシの営巣地が私有地にある箇所(繁殖期の高度利用域)を、すべて公共機関で買い上げ、自然の改変を抑制し、学識者を加えて生息環境の回復策を実行化していただきたい。
3 繁殖期高度利用域の低疎林化の拡大
低繁殖の要因のひとつとして、従前から深刻な餌不足が指摘されている。
これは、林業市場の構造的な変化、松杉等針葉樹に偏った国策的な植林、林業就業者の高齢化、後継者不足等により山林の間伐や下草刈りなどの手入れが行われず、放置に近い状態となっている。このため大型猛禽類の採餌が困難化していることが低繁殖に大きく影響していると考えられ、繁殖期の高度利用域を重点的に低疎林化の実施を急いでいただきたい。
4 営巣地周辺への餌となる放鳥等の実施
海外の草原面積の広い国(中央アジア:モンゴル等)では、一繁殖期に2羽の巣立ち(我が国の場合は平均3〜4年に一度の繁殖で1羽が普通)がごく自然に見られるが、我が国の場合は地勢的に温帯域に位置するため、森林の成長による影響があり、特に当県の場合は従来木材、薪炭の生産、牛馬の放牧等により人為的に低疎林化が維持されてきた。
現在、これらの低疎林化が放棄状態に近いため採餌に大きく影響し、繁殖どころか親鳥自体の生命維持が精一杯で低繁殖化が進行していると考えられる。
したがって、あくまで抜本的な対策以前の応急策として、繁殖期の高度利用域を主に、餌としての養殖キジや同ヤマドリの放鳥の実施をしていただきたい。
5 調査・研究体制の強化について
イヌワシ等猛禽類の繁殖成否は生態系のバロメーターと言われながら、これらに関する情報提供は長期間民間のNPOに頼ってきた。
県直接の本格的な調査、研究は、平成13年の環境保健研究センター発足からと言って過言でない。
また、イヌワシ等猛禽類専門研究員(鳥類博士号所持者)の配置はわずか1名で、県内の山中32箇所に散在(平均約60kuに1ペアが営巣)しているイヌワシの繁殖状況の調査、研究に当たることは体力的並びに精度的にも問題が生じかねない。さらに、真冬の整備条件の極めて悪い積雪した林道を1人で走行することは危険性が大きく、飛翔範囲の広いイヌワシの追跡調査自体にも困難性が伴い、欧米諸国に比較し、この面における体制上の遅れが大きい。
加えて、国の天然記念物で絶滅危惧種のイヌワシ等猛禽類専門研究員が5年間の期間雇用であること自体が、長期間を要する調査、研究業務に対する県の無理解さを露呈したものと言わざるを得ない。
したがって、イヌワシの低繁殖が現実化し絶滅が危惧されている現在、専門研究員3〜4名程度の増員と本採用は当然のこととして実行していただきたい。
6 イヌワシ繁殖成否の公表について
県は、従前毎期の繁殖成否はNPOの情報提供によるものであるため公表はできないとしてきた。しかし、現在はこれらの調査を県公債(県税)によって環境保健研究センターが実施している。したがって、当然毎年の繁殖成否を公表することは、自然の動向を県民に周知する意味でも自然保護業務の一環としての義務でもあると考えられる。
したがって、平成13年の環境保健研究センター発足以降のイヌワシ繁殖成否のデータは、市町村ごとに公表(平成8年〜10年、前例がある)することを当然としていただきたい。
7 自然保護担当部門の管理職の任期改善について
現在、課長級の任期期間はほぼ2年程度の周期的異動が繰り返されている。業務全体を掌握し実効的な業務に取り組むべき時期に転任する傾向が強い。
自然指向が強まる中、「佐渡のトキ」寸前の低繁殖が県民の関心を引いているイヌワシ等のような研究的要素の必要な分野は、応分の専門的学歴と経歴を考慮した配置と、任期期間をより長期的な配慮したものにしていただきたい。高まる一方の自然保護の施策需要に対しても、県として欠かせない配慮と考えられる。
8 巣の補修及び巣周辺の繁茂樹木等の伐採について
(1) 巣を安定させる岩棚の広さや傾斜が足りず、風で吹き飛ばされる巣がしばしば見られる。このような営巣地には非営巣期に人工的に補強、補修を実施し、繁殖に支障がないようにしていただきたい。
(2) イヌワシの営巣地は、自然界で外敵から雛を確実に守れる箇所はそう多くない。したがって、一般的に急峻な岩場が多く、中には経験的に安全性の確保ができる一箇所を長年使用するペアも多い。そうした場合、年々、巣周辺の樹木の繁茂により巣への出入りが困難となり、営巣を放棄する例が生じる。このような傾向が観察された場合、非繁殖期に不必要な樹木や蔦類の取り除きを実施していただきたい。
9 鉛使用弾の禁止の徹底
一般的に狩猟では、撃った獲物がすべて回収されるとは限らない。手負いとなったものが数日後に絶命することも多い。これらの死骸をイヌワシや獣類他の猛禽類も冬季の乏しい餌として命をつないでいる。
しかし、これらの銃弾にはまだ鉛が使用されており、捕食した猛禽類の鉛中毒死が最近多数(北海道の実例など)報告されている。
鹿猟が盛んな県南地区でもまだ実例はないようであるが、イヌワシ自体の寿命につながる一要因としての懸念は払拭できない。これら狩猟による動物の鉛中毒に関しては、かなり以前から問題視されながらごく一部しか進展がない。
したがって、国(環境省)との連携を強め完全な対策を早急に実施していただきたい。
10 水源及び森林保全等に関する新税の創設について
既にこれらの検討が実施されているとの報道に触れているが、本件請願事項にも当然費用が不可欠である。
ぜひ、この新税導入による森林の保全とともに猛禽類の棲息及び採餌条件の改善を急ぎ、自然界健全性の先行指標として、生態系の崩壊を示唆し絶滅が現実化しつつある天然記念物イヌワシの保護とその繁殖率の向上を確実なものにしていただきたい。